二項定理とは?展開の構造から生まれる数学の魔法
「かけ合わせて足す」その先にあるもの
前回のコラムでは、「展開とは、箱から項を選び掛け合わせてすべてを足す操作である」という視点から展開の構造を紹介しました。
たとえば次のような式:
$$(x+1)(x+2)(x+3)$$
このような3つのかっこの積は、「それぞれのかっこから1つずつ項を取り出して掛ける」ことのすべての組み合わせ(8通り)を考え、それらを足し合わせることで展開できます。
この考え方をさらに発展させていくと、「ある1つのかっこの中身を何回もかける」という展開に応用できます。それが、今回のテーマ「二項定理」です。
◆ 二項定理とは?
「二項定理」は、次のような式を展開する方法です:
\[(a+b)^n\]
この式は、\(a + b\) というたった2つの項の和を \(n\) 回かける、という形をしています。
たとえば:
- \((a + b)^2 = a^2 + 2ab + b^2\)
- \((a + b)^3 = a^3 + 3a^2b + 3ab^2 + b^3\)
これらの展開結果にはある規則性があります。
- 項の数は \(n + 1\) 個
- 各項の形は、\(a\) と \(b\) の積で、\(a\) の指数はだんだん減り、\(b\) の指数はだんだん増えていく
- 係数は、1, 2, 1 や 1, 3, 3, 1 など、左右対称になっている
この規則性を「一般化」して、どんな \(n\) に対しても使えるようにしたのが 二項定理 です。
◆ 二項定理の内容(公式)
\((a + b)^n\) を展開するとき、
\[(a + b)^n = {}_n \mathrm{ C }_0・a^n + {}_n \mathrm{ C }_1・a^{n-1}b + {}_n \mathrm{ C }_2・a^{n-2}b^2 + ・・・ + {}_n \mathrm{ C }_n・b^n\]
このように、項の数は \(n + 1\) 個。すべての項が、\(a\) と \(b\) の積の形になっており、係数として組合せ \({}_n \mathrm{ C }_r\) が現れます。
◆ 二項定理の式にはなぜ組合せの式が出てくるのか?(構造的理解)
たとえば \((a + b)^3\) を考えてみましょう。
これは、
\[(a + b)(a + b)(a + b)\]
の3つのかっこを掛けることになります。
このとき、それぞれのかっこから \(a\) または \(b\) を選び、3つを掛け合わせて作る積をすべて集めると、次のようになります:
- \(a^3\) (すべてのかっこから \(a\) を選ぶ)・・・1通り
- \(a^2b\)(2つのかっこから \(a\)、1つから \(b\))・・・3通り
- \(ab^2\)(1つのかっこから \(a\)、2つから \(b\))・・・3通り
- \(b^3\)(すべてのかっこから \(b\) を選ぶ)・・・1通り
これを係数付きで書くと:
\[(a + b)^3 = a^3 + 3a^2b + 3ab^2 + b^3\]
つまり、何個のかっこから \(a\) を選ぶかを基準に、項が分類されているのです。
この「どのかっこから \(a\) を選ぶか」という選び方の数が、まさに組合せ \({}_n \mathrm{ C }_k\) なのです。
具体例1:\((x + 1)^4\)
\[(x + 1)^4 = {}_4 \mathrm{ C }_0・x^4 + {}_4 \mathrm{ C }_1・x^3 + {}_4 \mathrm{ C }_2・x^2 + {}_4 \mathrm{ C }_3・x + {}_4 \mathrm{ C }_4\]
それぞれの組合せの値を代入すると:
\[= 1x^4 + 4x^3 + 6x^2 + 4x + 1\]
と展開できます。
具体例2:\((2x – 3)^3\)
このように \(a\) や \(b\) が定数や変数を含む場合も、同じルールで展開できます。
まずは \(a = 2x, b = -3, n = 3\) とみなして:
\[(2x – 3)^3 = {}_3 \mathrm{ C }_0・(2x)^3 + {}_3 \mathrm{ C }_1・(2x)^2・(-3) + {}_3 \mathrm{ C }_2・(2x)・(-3)^2 + {}_3 \mathrm{ C }_3・(-3)^3\]
計算すると:
\[= 1・8x^3 + 3・4x^2・(-3) + 3・2x・9 + 1・(-27) = 8x^3 – 36x^2 + 54x – 27\]
具体例3:\((x + y)^5\)
このような文字が2種類あるパターンも、まったく同じルールで展開可能です。
\[(x + y)^5 = {}_5 \mathrm{ C }_0・x^5 + {}_5 \mathrm{ C }_1・x^4y + {}_5 \mathrm{ C }_2・x^3y^2 + {}_5 \mathrm{ C }_3・x^2y^3 + {}_5 \mathrm{ C }_4・xy^4 + {}_5 \mathrm{ C }_5・y^5\]
\[= x^5 + 5x^4y + 10x^3y^2 + 10x^2y^3 + 5xy^4 + y^5\]
◆ 二項定理の応用:確率の「反復試行の公式」
実はこの構造、確率でもまったく同じ形で登場します。
たとえば、「成功確率 \(p\) のくじを5回引いて、ちょうど3回成功する確率は?」という問題。
これは、
- 試行回数:5回
- 成功:3回 → \(p^3\)
- 失敗:2回 → \((1 – p)^2\)
- 成功する位置の組合せ:\({}_5 \mathrm{ C }_3\)
したがって、確率は:
\[{}_5 \mathrm{ C }_3・p^3・(1 – p)^2\]
となります。
この式、実はまさに \((p + (1 – p))^5\) の中に含まれる項のひとつなんです。
このように、二項定理の構造は、確率の「反復試行の公式」と一致しているのです。
まとめ ▶▶▶ 二項定理について
- 二項定理は、「同じ2項の和」を何度もかけた展開結果を求めるための定理です。
- 展開の背景には「どのかっこからどの項を選ぶか」という組合せの考え方があり、\({}_n \mathrm{ C }_r\) が自然と現れます。
- この考え方は、確率や統計、数学オリンピックの問題にまで応用が可能です。
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◆ 今日のQ&A
二項定理とは何ですか?
二項定理とは、式 \((x + a)^n\) を展開するときに使われる法則で、項の係数を組合せ(\({}_n \mathrm{ C }_r\))で求めるものです。
組合せ(\({}_n \mathrm{ C }_r\) )はどんな意味がありますか?
\({}_n \mathrm{ C }_r\)は「n個の中からr個を選ぶ方法の数」を表します。二項定理では、\(x\)を\(r\)回、\(a\)を\((n−r)\)回使うパターンの数を意味します。
二項定理はどんな場面で使いますか?
多項式の展開、確率の反復試行(ベルヌーイ試行)など、繰り返しのある構造の理解に使われます。
具体的にどんな例がありますか?
\((x + 1)^3\) の展開は、\(x³ + 3x² + 3x + 1\) となり、係数はそれぞれ \({}_3 \mathrm{ C }_0,{}_3 \mathrm{ C }_1.{}_3 \mathrm{ C }_2,{}_3 \mathrm{ C }_3\)に対応します。
二項定理と確率はどう関係しますか?
二項定理と反復試行の確率計算は構造が同じです。成功と失敗を何回ずつ選ぶか、という形で組合せを使います。